1つの船を作るのに、100トンを超える鉄のかたまりを何十個も組み上げていきます。溶接、塗装、艤装(ぎそう。エンジンや配管などを取り付ける仕事)、検査、設計。造船所の仕事は、想像より細かく分かれています。
この記事では、国土交通省や厚生労働省、業界団体、造船会社の採用ページなど、公開されている情報をもとに、仕事の中身・きつさの理由・時給の目安・資格のことをまとめました。自分に合うか判断する材料にしてください。
先に結論
先に要点だけ。
- 造船の仕事は、溶接・鉄工・塗装・艤装・検査・設計など、職種によって内容がかなり違います。
- 「きつい」と言われる理由は、屋外作業で天気に左右されること、高所作業、溶接の煙(ヒューム)、重い部品を扱うクレーン作業などです。
- 労働災害の統計では「墜落・転落」が最も多い事故の型になっています(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」、令和2〜7年データ)。
- 時給はアルバイト・パートで1,150円前後、派遣社員で1,596円前後が目安です(2026年7月時点・求人ボックス調べ)。正社員の平均年収は454万円前後という集計もあります。
- 未経験・学歴不問の求人が多く、資格は入社後に取得できる会社もあります。
造船の仕事は「切る・組む・仕上げる」の流れ
船は、次のような流れで作られます(函館どつくの解説より)。
- 設計:船の図面をつくる。
- 鋼材加工:コンピュータで管理した機械で鋼材を切ったり、曲げたりする。
- 組立:小さい部品を集めて(小組立)、大きな構造体(大組立)にする。1つのブロックが100トンを超えることもあります。
- 搭載・艤装:ブロックをドックで組み合わせたあと、エンジン・舵板・プロペラ・配管・電線などを取り付ける。
- 進水・試運転:船を水に浮かべ、実際に海上で走らせて性能を確認する。試運転はだいたい2〜3日間です。
国土交通省の資料では、造船の仕事を次の6つに分けて説明しています。
| 職種 | 仕事の内容 |
|---|---|
| 溶接 | 船の主な構造材料である厚い鉄板を溶接する |
| 塗装 | 貝がつくのを防ぐ、さびを防ぐ、水との摩擦を減らすために船体に塗る |
| 鉄工 | 鉄板を切ったり加工したりして、ブロックの部品を作る |
| 仕上げ | エンジンの部品を組み合わせる、プロペラの表面をなめらかに仕上げる |
| 機械加工 | エンジンの部品などを削って加工する |
| 電気機器組立て | 配電盤・制御盤などの電気設備を組み立て、配線し、試験する |
※国土交通省の資料(2019年時点の区分。2024年3月の閣議決定で「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に再編されています)。
このほか、造船会社の採用ページでは、艤装工(エンジンやポンプなどの機械を船に取り付け、正常に動くか確認する仕事。1/100mm単位の精密さが求められるとされます)、検査工(船の安全性を確かめる検査への立ち会いや補助)、配管工(船の配管の工程や品質を管理)といった職種も紹介されています。設計・生産管理の仕事もあります。
造船の溶接は何が違うのか
造船の溶接には、ほかの工場と違う特徴があります。
業界団体の資料によると、船体を作る工程は「板継→小組→中組→大組→総組→搭載(ドック)→艤装」の順に進みます。鋼板をつなぐ「板継」は、今はほとんどの造船所で自動溶接になっていて、手作業の場合は下向き姿勢が中心です。総組から搭載の段階に進むと、部材を動かして下向きにしにくくなる場面が増え、下向き以外の姿勢(立向き・横向き・上向き)での溶接も必要になってきます。
国土交通省の資料でも、この違いがはっきり書かれています。外国人材を受け入れる「特定技能」制度の造船分野では、溶接の難しさによって次のようにレベル分けされています。
- 特定技能1号:厚い鋼板を下向きで溶接
- 特定技能2号:厚い鋼板を上向きや横向きなど、より高度な姿勢で溶接。現場の監督も担う
自動車の溶接は主に薄い鋼板を扱うのに対し、造船は厚い鋼板を、いろいろな姿勢で溶接する場面が多くなります。ここが、造船の溶接の特徴です。
「きつい」と言われる理由
造船の仕事が「きつい」と言われるのには、いくつか理由があります。
屋外作業で天気に左右される。 船体の組立や搭載は、屋外や広いドックで行うことが多い作業です。台風や大雨、強風のときは安全のため作業を中止することがあり、その分、晴れた日に作業が集中しやすいとされています(転職コラムサイトの解説より。公的な統計ではありません)。
暑さの負担。 造船業だけに絞った暑さの統計は見つかりませんでした。ただ、厚生労働省の発表では、2024年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は1,257人で、製造業が235人、建設業が228人と、この2業種で全体の約4割を占めています。2025年は死傷者数が1,803人と、統計を取り始めてから最も多くなりました。これは製造業全体の数字で、造船業だけの数字ではありません。
高所作業。 広島労働局の資料には、「造船所では、船体ブロックの組立時など高所での作業が多数行われており、高さ2メートル以上の作業箇所には足場を設置したり、手すりを設けるなどの墜落防止措置が必要」と書かれています。
溶接の煙(ヒューム)。 鋼板のアーク溶接では、多量のヒューム(煙のような粉じん)が発生します。長年吸い込むとじん肺などの健康障害につながるおそれがあるため、溶接作業では呼吸用保護具の着用が義務づけられています(同じ広島労働局の資料より)。
重い部品とクレーン作業。 船の部材やブロックは重いため、クレーンでの搬送作業が欠かせません。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の統計では、クレーンなどが原因の労働災害が令和2年に38件、令和7年に21件発生しています。
船内の狭い場所での作業や、工期に追われて残業・休日出勤が増えることがあるという解説も転職系のサイトにありますが、こちらは公的な資料では確認できませんでした。
危険な作業と安全対策
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の労働災害統計(労働者死傷病報告をもとに作成)によると、造船業で休業4日以上の労働災害件数は次のように推移しています。
| 年度 | 件数 |
|---|---|
| 令和2年 | 457件 |
| 令和3年 | 355件 |
| 令和4年 | 304件 |
| 令和5年 | 349件 |
| 令和6年 | 371件 |
| 令和7年 | 338件 |
※厚生労働省「職場のあんぜんサイト」より。令和2年の数字にはコロナへのり患を含みます。令和2年から令和7年にかけて、年平均でおよそ3.6%減少するペースです。
事故の型別では「墜落・転落」がもっとも多く、令和2年は約24%、令和7年は約25%を占めています。次いで「はさまれ・巻き込まれ」「飛来・落下」「転倒」が続きます。
安全のために、次のようなルールが決まっています(広島労働局の資料より)。
- クレーンの運転、高所作業車の運転など危険な業務には、免許・技能講習の修了・特別教育の受講が必要
- ガス溶接など火気を扱う作業では、ガスボンベの転倒防止などの管理が必要
- 電気設備の感電・漏電対策(手持ち型電灯のガード、溶接棒ホルダーの感電防止など)が必要
- クレーンは定期的な自主点検が必要
また、造船所は下請け業者が多く関わる現場です。厚生労働省の指針では、発注元の会社に対し、安全衛生管理体制の整備や、作業場所の巡視、下請け業者への安全教育の支援などを行うよう求めています。
時給・給料の目安
求人情報の集計サイト「求人ボックス」によると、造船の仕事の時給・年収の目安は次のとおりです(2026年7月時点)。
| 雇用の形 | 目安 |
|---|---|
| アルバイト・パート | 時給 約1,150円 |
| 派遣社員 | 時給 約1,596円 |
| 正社員 | 平均年収 約454万円(月給の目安は約38万円) |
| 初任給の目安 | 約24万円 |
※求人サイトに載っている求人情報から算出した中央値です。給与の幅は年収345万〜932万円と求人ごとに差があります。都道府県別では、平均年収がもっとも高いのは神奈川県(約510万円)、もっとも低いのは大分県(約364万円)でした。応募前に、実際の求人票で確認してください。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査で、造船業(船舶製造・修理業)だけに絞った平均賃金は見つかりませんでした。確認できたのは、造船業を含むより広い「輸送用機械器具製造業」区分のデータで、令和6年調査では平均年収が約598万円でした。この区分には自動車や鉄道車両、航空機なども含まれるため、造船だけの数字として使うことはできません。
未経験・資格のこと
学歴や資格の必要有無について、国や業界団体が「未経験でも可」「学歴は不問」と明記した公的な資料は見つかりませんでした。一方で、求人サイトには、造船関連の仕事で「未経験歓迎」「学歴不問」とうたう求人が多く出ています。会社ごとに条件は違うので、応募前に個別の求人票で確認してください。
大島造船所の採用ページには、「造船関係では必要な資格は特にありません。必要な資格は入社してから取ってもらいます」と書かれています。資格を持っていなくても、まず入社できる会社もあります。
役立つ資格をいくつか挙げます。
| 資格名 | 必要になる場面 |
|---|---|
| クレーン・デリック運転士免許 | つり上げ荷重5トン以上のクレーンを運転する(床上操作式クレーンは別の技能講習で運転できる場合があります) |
| 玉掛け技能講習 | クレーンで荷物を吊るワイヤーをかけたり外したりする(つり上げ荷重1トン以上) |
| フォークリフト運転技能講習 | 最大荷重1トン以上のフォークリフトを運転する |
| 高所作業車運転技能講習 | 作業床の高さ10メートル以上の高所作業車を運転する |
| ガス溶接技能講習 | 可燃性ガスと酸素を使って金属を溶接・溶断・加熱する |
| 溶接技能者資格(JIS溶接技能者) | 溶接の技術を証明する資格。基本級(下向き)・専門級(立向き・横向き・上向き)に分かれる |
未経験者向けの研修制度がある会社もあります。今治造船は新入社員研修が6か月間で、集合研修に加え、建造現場での実務研修とOJT、配属後1年間のメンター制度があります。資格取得補助制度やオンライン教育研修システムも用意されています。大島造船所は入社後最初の6か月間が現場での研修中心で、英語教育にも力を入れています。
工場で取れる資格をほかにも比べたい人は、こちらにまとめています。→ 工場で稼げる資格の比較
造船が盛んな地域と、業界の今
造船業が盛んなのは、瀬戸内海沿岸(愛媛・広島・香川・山口)を中心に、九州(長崎)、東海(三重)、近畿(舞鶴)、関東(横浜)など、全国の海沿いです。今治造船(愛媛県今治市)は日本最大手で、2026年1月にジャパンマリンユナイテッド(JMU)を子会社化し、両社を合わせた国内新造船建造シェアは5割を超えるとされています。三菱重工業の長崎造船所・下関造船所なども代表的な拠点です。
業界は人手不足が続いています。日本造船工業会の資料(国土交通省海事局資料をもとに作成)によると、日本の造船業の就労者数等は2016年には9万人を超えていましたが、現在は7.6万人まで減っています(2026年3月時点)。国土交通省は造船業を重要な産業と位置づけ、企業の集約・統合やDXによる生産性向上を進めています。
応募前に確認したいこと
造船所は、同じ会社でも職種によって仕事の中身がまるで違います。応募する前に、次の点を求人票や面接で確認しておくと、入ってからのギャップが減ります。
- どの職種・工程を担当するか(溶接・鉄工・塗装・艤装・検査など)
- 屋外作業が中心か、屋内作業もあるか
- 資格が未取得でも応募できるか、入社後の取得支援はあるか
- 研修期間の長さと、内容
- 時給・月給と、資格手当・危険手当などの手当
- 通勤方法、寮があるか
次にやること
造船の仕事は、職種によってきつさも中身も変わります。最後に、今日からできることをまとめます。
- 気になる求人を1〜2件開いて、「職種」「未経験可・学歴不問かどうか」「資格取得支援の有無」の3つを見てみる。
- 屋外作業や高所作業が苦手かどうか、自分の体力・体質を振り返る。
- ほかの業種と迷っているなら、工場の業種別 働きやすさ比較で、負担の中身を横並びで見比べる。
「造船はきつい」という言葉だけで判断せず、まずは職種ごとの仕事内容を求人票で確かめるところから始めてみてください。
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参考にした情報
- 函館どつく「船ができるまで」 https://www.hakodate-dock.co.jp/about/ship-building-process/
- 国土交通省「造船・舶用工業分野における特定技能外国人の受入れについて」 https://www.mlit.go.jp/common/001301507.pdf
- 出入国在留管理庁「造船・舶用工業分野」 https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/ship.html
- しまなみ造船「しまなみ造船の仕事」 https://shimanami-shipyard.co.jp/recruit/works/
- 造船ナビ「造船業界の職種一覧」 https://www.zousennavi.com/shipbuilding-jobs/
- 一般社団法人日本中小型造船工業会「造船所のための溶接ヒュームに関する新規規制対応手引き」 https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000237652.pdf
- 厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001496330.pdf
- 厚生労働省「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73330.html
- 広島労働局「造船業の労働災害防止に向けた集中監督結果について」 https://jsite.mhlw.go.jp/hiroshima-roudoukyoku/library/hiroshima-roudoukyoku/05/contens/pdf/kousyoujoukyou_07.pdf
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害統計 https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/anst00.html
- 求人ボックス 給料ナビ「造船の仕事の平均年収・時給」 https://xn--pckua2a7gp15o89zb.com/%E9%80%A0%E8%88%B9%E3%81%AE%E5%B9%B4%E5%8F%8E%E3%83%BB%E6%99%82%E7%B5%A6
- e-Stat「賃金構造基本統計調査」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- 今治造船 Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E6%B2%BB%E9%80%A0%E8%88%B9
- ジャパンマリンユナイテッド 拠点案内 https://www.jmuc.co.jp/location/
- 日本造船工業会「造船業再生強化~建造能力倍増に向けて~」 https://www.jpmac.or.jp/file/1773288914694.pdf
- 国土交通省「海事:造船業の国際競争力の強化」 https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk5_000014.html
- クレーンネット「クレーン運転士免許と玉掛け作業」 https://cranenet.or.jp/faq/index_old.html
- 東京技能講習協会(玉掛け・ガス溶接) https://www.tgkk.or.jp/
- コベルコ教習所「フォークリフト運転技能講習」 https://www.kobelco-kyoshu.com/licenses/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%95%E3%83%88%E9%81%8B%E8%BB%A2%E6%8A%80%E8%83%BD%E8%AC%9B%E7%BF%92/
- 中部労働技能教習センター「高所作業車運転(作業床の高さ10m以上)」 https://www.ginosenta.or.jp/course/388/
- JWES「溶接技能者」 https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/
- 今治造船 企業情報 https://job.career-tasu.jp/corp/00201022/
- 大島造船所「よくある質問」 https://jp.osy.co.jp/recruiting/faq/
※記載の内容は2026年8月時点で確認できた情報にもとづきます。時給・給料や統計、法令の運用は変わることがあるため、最新の情報は各公式サイトで確認してください。
