ラベルの表示や危険性の確認が必要な化学物質は、毎年のように増えています。厚生労働省の審議会資料によると、2026年4月からは約2,900物質が対象です。2027年4月には、さらに155物質が加わる予定です。
この変化に合わせて、2024年4月から、対象の化学物質を扱う工場などでは「化学物質管理者」を選ぶことが義務になりました。職場でこの役目を任されそうな人や、資格を増やしたい人に向けて、仕事の中身と講習の時間・費用を順に整理します。
先に結論
- 化学物質管理者は、2024年4月1日から選任が義務になった役目です。業種や会社の規模は関係ありません。
- 化学品を「製造」する事業場では、専門的講習(講義9時間・実習3時間、合計12時間以上)を終えた人などから選ぶ必要があります。
- 化学物質を「使うだけ」の事業場では、講習は必須ではありません。受けることがすすめられています。
- 講習の費用は、2日の専門的講習でだいたい2万7,000〜5万5,000円、1日(約6時間)の講習でだいたい1万2,000〜3万9,000円です(2026年10月時点・7機関の公式ページから)。
- 資格手当がつくかどうかは、公開情報では確認できませんでした。会社の規程で確かめてください。
化学物質管理者とは?
厚生労働省のリーフレットによると、化学物質管理者は、労働安全衛生規則(働く人の安全を守るための国のルール)の第12条の5で決められた役目です。2024年4月1日から選任が義務になりました。
選ばなければいけないのは、「リスクアセスメント対象物」を製造・取り扱い・譲渡提供する事業場です。リスクアセスメント対象物とは、国が危険性や有害性があると決めた化学物質のことです。リスクアセスメントは、その化学物質でどんな危険があるかを調べて、対策を決める作業を指します。
厚生労働省の資料では、次のように決められています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 業種・規模を問わず、対象の化学物質を製造・取り扱う事業場 |
| 選ぶ単位 | 工場・営業所など、事業場ごと |
| 選ぶ期限 | 選ぶ必要が出た日から14日以内 |
| 知らせ方 | 名前を掲示などで働く人に知らせる |
| 労働基準監督署への届出 | 不要 |
※厚生労働省のリーフレット、労働安全衛生規則、厚生労働省「化学物質規制に関するQ&A」(2024年2月28日更新)より。
一般の家庭用の製品だけを扱う事業場は、対象外です。自分の職場が当てはまるか分からないときは、厚生労働省は、地域の労働基準監督署に相談するよう案内しています。
化学物質管理者は何をする人?
労働安全衛生規則によると、化学物質管理者の仕事は次の7つです。
| 番号 | 仕事の内容 |
|---|---|
| 1 | ラベルの表示とSDS(安全データシート。化学物質の危険性や扱い方を書いた書類)に関すること |
| 2 | リスクアセスメントの実施に関すること |
| 3 | 化学物質を吸い込んだり触れたりしないための対策に関すること |
| 4 | 化学物質による事故が起きたときの対応に関すること |
| 5 | リスクアセスメントの結果の記録・保存・周知 |
| 6 | 対策の状況の記録・保存・周知 |
| 7 | 1〜4について、働く人に必要な教育をすること |
厚生労働省のQ&Aによると、化学物質管理者に求められるのは、これらの仕事を「管理」することです。作業を全部自分でやる必要はありません。これまでの担当者が実際の作業をして、化学物質管理者がそれを管理する形でもよいとされています。
講習は必須?製造と取扱いで分かれる
講習が必須かどうかは、その事業場が「製造」なのか「取扱い」なのかで変わります。
| 事業場の種類 | 選ぶ人の条件 | 講習 |
|---|---|---|
| 製造する事業場 | 専門的講習を終えた人など | 必須 |
| 取り扱うだけの事業場 | 決まった資格は不要 | 受講をすすめられている |
※厚生労働省のリーフレットより。
厚生労働省のQ&Aによると、売ったり渡したりするために、化学物質を混ぜる・精製するなど中身を変える作業をする事業場は「製造」にあたります。小分けや砕くだけの作業は「取扱い」です。社内で混ぜて、そのまま自分たちで使う場合も「製造」にはあたりません。
ただ、石川労働局の自主点検表では、対象の化学物質を扱っているかを確かめる項目の説明で、薄める・小分けするといった作業も「製造」に含めています。場面によって言い方が違うので注意が必要です。塗料の調合や薬液を薄める作業がある工場は、自己判断せず、会社の担当者か労働基準監督署に確かめてください。
専門的講習の中身
厚生労働省の告示(令和4年 厚生労働省告示第276号)によると、専門的講習の中身は次のとおりです。
| 区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
| 講義 | 化学物質の危険性・有害性と表示など | 2時間30分以上 |
| 講義 | 危険性・有害性の調査(リスクアセスメント) | 3時間以上 |
| 講義 | 調査の結果にもとづく対策と記録など | 2時間以上 |
| 講義 | 事故が起きたときの対応 | 30分以上 |
| 講義 | 関係する法律 | 1時間以上 |
| 実習 | 調査と対策(保護具の選び方・使い方を含む) | 3時間以上 |
講義は合計9時間、実習を合わせると12時間以上です。厚生労働省の通達では、講義はオンラインで受けてもよく、実習はオンラインでは受けられません。
一部の科目が免除される人もいます。
- 有機溶剤・鉛・特定化学物質の作業主任者技能講習を3つとも終えた人は、「危険性・有害性と表示など」が免除。
- 第一種衛生管理者の免許を持つ人は、「危険性・有害性の調査」が免除。
- 衛生工学衛生管理者の免許を持つ人は、「調査」と「対策と記録など」が免除。
ただし、免除のあつかいは講習を開く機関によって違います。兵庫労働基準連合会のように、免除を受けると受講料が下がる機関もあります。申し込む前に機関に聞いてください。
講習の費用・日数は機関で2倍近く違う
専門的講習(製造する事業場向け・2日)
| 機関 | 受講料(テキスト代込み) |
|---|---|
| 東京労働基準協会連合会 | 会員2万7,170円/一般3万470円 |
| 新潟県労働基準協会連合会 | 2万9,480円 |
| 静岡県労働基準協会連合会 | 3万4,050円 |
| 兵庫労働基準連合会 | 免除なし:会員4万1,800円/非会員4万6,200円、免除あり:会員3万5,200円/非会員3万9,600円 |
| 中央労働災害防止協会 | 賛助会員4万9,500円/一般5万5,000円 |
※2026年10月24日確認。各機関の公式ページ・案内より。テキスト代が別のところは、受講料と足した額です。静岡県は、日数とテキスト代が含まれるかの記載がありませんでした。兵庫労働基準連合会のテキスト代(2,200円)は2026年11月の講習からの金額です。
いちばん安い東京労働基準協会連合会の会員料金と、いちばん高い中央労働災害防止協会の一般料金では、約2倍の差があります。「会員」は、その協会に会社が入っている場合の料金です。自分の会社が会員かどうかは、総務や安全衛生の担当者に聞くと分かります。
取り扱う事業場向けの講習(1日・約6時間)
| 機関 | 受講料(テキスト代込み) |
|---|---|
| 香川県労働基準協会 | 会員1万2,320円/非会員1万4,520円 |
| 東京労働基準協会連合会 | 会員1万5,620円/一般1万9,470円 |
| 新潟県労働基準協会連合会 | 1万6,280円 |
| 愛媛労働基準協会 | 会員1万7,270円/一般1万9,470円 |
| 中央労働災害防止協会(基本) | 賛助会員2万3,760円/一般2万6,400円 |
| 中央労働災害防止協会(取扱い事業場等向け) | 賛助会員3万4,650円/一般3万8,500円 |
※2026年10月24日確認。各機関の公式ページ・案内より。中央労働災害防止協会の取扱い事業場等向けは、常時使う働く人が300人未満で労災保険に入っている事業場なら、賛助会員2万4,255円/一般2万6,950円に下がります。
兵庫労働基準連合会の2日講習は、最後に「効果確認試験」があります。ほかの機関の公式ページでは、試験の記載は確認できませんでした。どの機関も、決められた科目を全部受けると修了証がもらえる形です。遅刻や早退で時間が足りないと、修了証が出ない機関もあります。
保護具着用管理責任者・作業主任者とはどう違う?
名前が似た役目が2つあります。
| 役目 | 主な仕事 |
|---|---|
| 化学物質管理者 | 事業場全体の化学物質の管理(上の7つの仕事) |
| 保護具着用管理責任者 | 保護具(マスク・手袋など)の選び方、正しい使い方、手入れの管理 |
| 作業主任者(有機溶剤・特定化学物質など) | その作業をする人たちを、現場で指揮する |
※労働安全衛生規則、厚生労働省の施行通達より。
保護具着用管理責任者は、化学物質管理者を選んだ事業場で、リスクアセスメントの結果として働く人に保護具を使わせるときに選びます。これも14日以内です。第一種衛生管理者や、有機溶剤・特定化学物質の作業主任者など、保護具の知識と経験があると認められる人から選び、当てはまる人がいないときは、保護具の管理についての教育(6時間)を受けた人を選びます。
保護具の教育の受講料は、東京労働基準協会連合会が会員1万6,500円/一般2万350円(1日)、中央労働災害防止協会の基本コースが賛助会員1万7,820円/一般1万9,800円(1日)です(2026年10月24日確認・テキスト代込み)。
作業主任者は、化学物質管理者とは役目のねらいが違うと厚生労働省は説明しています。仕事に支障がない範囲なら、同じ人が両方をかねてもよいとされています。作業主任者の資格は、有機溶剤作業主任者や特定化学物質作業主任者の記事にまとめています。
取ると工場の仕事でどう役立つ?
化学品をつくって出荷する工場では、専門的講習を終えた人がいないと、化学物質管理者を選べません。講習を終えていれば、会社が決まりを守るための役目を任されやすくなります。中央労働災害防止協会の1日コースでは、受講の対象に職長(現場のリーダー)が挙がっています。
一方で、化学物質管理者に資格手当をつける求人は、公開情報では確認できませんでした。手当や評価は会社ごとに違います。受ける前に、会社の規程や上司に確かめておくと安心です。
受講料に国の助成金が使えるかは、はっきりした案内が見つかりませんでした。人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給要領は、法律で会社に義務づけられた講習を対象外としつつ、資格を取るための法定講習は除くとも書いています。化学物質管理者の講習が対象かどうかは書かれていないので、都道府県の労働局に確認してください。
資格の選び方は工場で稼げる資格の比較にもまとめています。
次にやること
- 自分の職場が「製造」か「取扱い」かを、会社の担当者に聞く。 迷うときは、労働基準監督署に相談しましょう。
- 製造なら2日の専門的講習、取扱いなら1日の講習を探す。 住んでいる都道府県の労働基準協会と、中央労働災害防止協会のページを見比べましょう。
- 会社が会員かを確かめる。 会員料金のほうが安くなります。
- 作業主任者技能講習や衛生管理者の免許があるなら、科目の免除ができるか機関に聞く。
- 受講料を会社が出すか、資格手当がつくかを会社に聞く。
参考にした情報
- 厚生労働省「職場における新たな化学物質規制が導入されます」(リーフレット) https://www.mhlw.go.jp/content/001093845.pdf
- 厚生労働省「化学物質規制に関するQ&A」(2024年2月28日更新) https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/FAQ_20240228.pdf
- 厚生労働省 告示第276号(化学物質管理者講習の科目・時間) https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000987097.pdf
- 厚生労働省 通達 基発0907第1号 https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001117847.pdf /施行通達 基発0531第9号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6779&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省 労働政策審議会 安全衛生分科会 資料 https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001569047.pdf
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 石川労働局 自主点検表 https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/content/contents/002271822.pdf
- 厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)支給要領」(2026年8月3日以降の計画届に適用) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731969.pdf
- 中央労働災害防止協会「化学物質管理者専門的講習」 https://www.jisha.or.jp/seminar/chemicals/r10060_chemical_manager.html /「化学物質管理者研修(基本)」 https://www.jisha.or.jp/seminar/chemicals/r10067_chemical_manager_basic.html /「(取扱い事業場等対象)」 https://www.jisha.or.jp/seminar/chemicals/r10062_chemical_manager_nm.html /「保護具着用管理責任者研修(基本)」 https://www.jisha.or.jp/seminar/chemicals/r10101_protective_equipment_basic.html
- 東京労働基準協会連合会「受講料一覧」 https://www.toukiren.or.jp/pdf/jukouryo_20260901.pdf
- 新潟県労働基準協会連合会 https://www.shinkiren.jp/anzen/chemical
- 静岡県労働基準協会連合会 https://www.shizukiren.or.jp/documents.html
- 兵庫労働基準連合会 案内 https://hyogo-roki.or.jp/h_web/annai/35kagakukanri2day.pdf
- 愛媛労働基準協会 https://ehimerouki.jp/workshop/skill_training/%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%89%A9%E8%B3%AA%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%80%85%E8%AC%9B%E7%BF%92%EF%BC%88%EF%BC%91%E6%97%A5%EF%BC%89/
- 香川県労働基準協会 https://kagawa-rouki.or.jp/%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%89%A9%E8%B3%AA%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%80%85%E8%AC%9B%E7%BF%92%EF%BC%96%E6%99%82%E9%96%93%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9/
