紙は毎日どこかで使うものなのに、それを作る工場の中身を知っている人は多くありません。「製紙工場ってなんとなく暑そう」「大きい機械が動いていて危なそう」というイメージだけで、求人を検討の外に置いていないでしょうか。
木のチップや古紙から紙になるまでには、いくつもの工程があります。それぞれの工程で何が起きているのか、どんな危険があってどう対策されているのか、給料はどのくらいか。公開されている情報を整理しました。応募するかどうかを決める材料にしてください。
この記事でわかること
- 製紙工場の仕事は、パルプ化、抄紙(しょうし)、乾燥、仕上げという工程に分かれます。中心になるのは、紙を漉く「抄紙機」を操作する仕事です。
- 高温の設備や大型機械を扱うため、暑さやはさまれ事故への注意が必要です。ただし、法律で決まった安全対策があります。
- きつさの中心は、暑さ、におい、重い紙ロールの運搬、そして24時間稼働にともなう交代勤務です。
- 時給はだいたい1,000〜2,000円くらいと幅があります(2026年7月時点・複数の求人サイトから)。
- 未経験でも入れる求人が多いです。フォークリフトや玉掛けの資格があると、任される仕事の幅が広がりやすいです。
パルプ化・抄紙・乾燥・仕上げ、紙ができるまで
紙になるまでの流れは、大きく4つの工程に分かれます。
木材チップや古紙から、紙のもとになる繊維(パルプ)を取り出すのが「パルプ化」です。機械や薬品で繊維を取り出し、汚れを取り除いてから漂白・洗浄します。
次が「抄紙」です。パルプを水に溶かした液を、金網(ワイヤー)の上に薄く均一に流して紙の形にします。ここで使う大きな機械が「抄紙機」で、繊維をすくい取る部分、ローラーで水分を絞る部分、熱で乾かす部分の3つでできています。この乾かす部分では、蒸気で熱した鉄製のシリンダーに紙を押し当てて水分を飛ばします(乾燥は、独立した工程というより抄紙機に組み込まれた作業です)。最後の仕上げ工程では、紙の表面をなめらかにしたり薬品を塗ったりして、カッターで大きさをそろえて完成させます。
現場の求人情報を見ると、「抄紙機オペレーター」として、機械の監視、紙の厚みや水分の調整、原料の仕込み、フォークリフトでの運搬などを担当する仕事が多いようです。
未経験・学歴不問で応募できる求人も少なくありません。製紙会社の工場採用では「未経験者応募OK・無資格OK・学歴不問」とされている例もあり、入社後は座学研修と半年〜1年ほどのOJT(実際の作業をしながら覚えること)で仕事を身につけていく仕組みが一般的です。資格が必要な作業でも、会社が費用を負担して取らせてくれる求人もあります。
工場ならではの危険と、その対策
製紙工場には、他の工場とは違う特有の心配ポイントがあります。ひとつずつ見ていきます。
大型機械のはさまれ・巻き込まれ抄紙機や巻取り機は、大きくて動きの速い機械です。厚生労働省の資料によると、令和5年(2023年)の労働災害では、製造業でもっとも多い事故の型が「はさまれ・巻き込まれ」で6,377人、そのうち機械によるはさまれ・巻き込まれの死傷者数は4,908人でした(製紙業だけに絞った人数ではなく、製造業全体の数字です)。
法律では、原動機や回転軸、歯車、ベルトなど、はさまれ・巻き込まれの危険がある部分に「覆い」や「囲い」を設けることが会社に義務づけられています(労働安全衛生規則)。さらに、年1回以上の定期健康診断に加えて、騒音や高温作業にあたる人には特殊健康診断を行うことも決まっています。
高温・蒸気を使う工程での火傷、化学薬品を使う工程での事故紙を乾かす工程では蒸気で熱した設備を使うため、高温になる部分があります。パルプを作る工程では化学薬品を使う場面もあり、扱いを誤ると事故につながります。重い紙ロールを運ぶ作業も、扱いを誤ればけがのもとです。紙ロールは製品によって数百キロから1トンを超えることもあるとされています。
こうした危険があるからこそ、機械の覆いや保護具、健康診断といった法律上の対策が細かく決まっているとも言えます。応募のときは、安全教育や保護具の支給があるかを確認しておくと安心です。
きついと感じる理由
理由はいくつか重なっています。
暑さ紙を乾かす工程では高温の設備を使うため、工場内が暑くなりやすいと言われます。国は2025年6月から、暑い環境での作業について新しいルールを設けました。改正された労働安全衛生規則により、暑さ指数(WBGT値)28度以上、または気温31度以上の場所で長時間作業する場合、会社に熱中症対策をとることが義務づけられています。職場での熱中症による死傷者は、令和5年(2023年)が1,106人、令和6年(2024年)は1,257人で、その約4割は建設業と製造業が占めているとされています。
におい・騒音クラフトパルプという方法で紙の原料をつくる工程では、薬品の反応でにおい成分が出ることがあります。機械音が大きい職場もあります。
重い紙ロールの運搬重い物を持つときの目安として、厚生労働省の指針では、男性はおおむね体重の40%以下、女性は24%以下にとどめることなどが示されています。フォークリフトやクレーンで運ぶ工場もあり、そこは体の負担が軽くなります。
交代勤務製紙工場は基本的に24時間稼働のため、日勤・準夜勤・夜勤を回す三交代制が採用されていることが多く、生活リズムが崩れやすい点も理由のひとつです。工場ごとの具体的な暑さの程度やシフトの組み方は会社によって差があるので、求人票や面接で確認するのが確実です。
一方で、向いている人もいる
- 検査・仕分け・梱包など、力仕事が比較的少ない工程もあります。
- 機械の監視や調整が中心の仕事なので、決まった作業をコツコツ進めるのが苦にならない人には向いています。
- 抄紙機の操作は覚えるほど任される作業が増え、資格取得を支援してくれる会社も見つかります。
「製紙工場 きつい」と検索する人が挙げる理由は、暑さ、におい、重さ、交代勤務です。工場や配属される工程によって差が大きいので、気になる求人があれば直接確認するのがいちばん確実です。
時給・給料の目安
働き方によって差があります。複数の求人サイトを見た範囲では、次のようになっています。
| 働き方 | 時給・給料の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| パート・アルバイト | だいたい1,000〜1,500円くらい(都市部は1,800円台の例も) | 未経験OKの求人が多い |
| 派遣・契約社員 | だいたい1,300〜2,000円くらい | 製紙工場限定の統計はなく、工場派遣全体の相場 |
| 正社員(年収) | だいたい450万〜600万円くらい | 会社や経験で幅が出る |
※2026年7月時点。タウンワーク・バイトル・Indeedなど複数の求人サイトの掲載情報から。集計のしかたはサイトで違うため、あくまで目安です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査には「パルプ・紙・紙加工品製造業」という区分がありますが、今回の調査では平均給与額までは確認できませんでした。気になる人はe-Statなどの公式統計で最新を確かめてください。
夜勤があると、給料は上がりやすくなります。夜22時から朝5時の時間帯は、いつもの時給に25%以上を上乗せすると法律で決まっているからです(労働基準法)。ただし「夜勤手当」という名目の手当そのものは法律上の義務ではなく、あるかどうか・金額は会社によって違います。求人票の「深夜割増」「夜勤手当」の欄をあわせて見ておきましょう。
あると有利な資格
製紙工場では、原料のパルプや紙ロールなど重いものを運ぶ場面が多くあります。力仕事を機械に任せられる資格を持っていると、仕事の幅が広がります。
| 資格・講習 | どんな作業に使うか | 日数の目安 | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| フォークリフト運転技能講習 | 製品・原料をパレットごと運ぶ | 2〜5日(保有免許で変わる) | だいたい1.5万〜5万円くらい(保有免許で変わる) |
| 玉掛け技能講習 | クレーンで荷物をつり上げる前の「かける」作業 | 2〜3日ほど | だいたい2万〜2.5万円くらい |
| 床上操作式クレーン運転技能講習 | 工場内の天井クレーンで紙ロールなどを移動 | 無資格なら3日ほど(玉掛けなどの資格があれば2日に短縮) | だいたい3.5万〜4万円くらい(資格があれば2日・3.3万円くらいに短縮) |
※2026年7月時点。地域や教習機関によって差があります。
フォークリフトはほぼどの工場でも使うので、まず取っておいて損はない資格です。くわしくはフォークリフト免許の取り方にまとめています。玉掛けとクレーンはセットで学ぶ人も多く、合併講習を用意している教習所もあります。玉掛け技能講習のまとめも参考にしてください。入社後に会社の補助で取らせてもらえる求人もあるので、「資格取得支援あり」と書かれているか確認してみてください。
未経験・女性・年齢はハンデになる?
未経験製紙工場の求人を見ると、「未経験歓迎」「フォークリフト免許は入社後取得OK」といった条件をよく見かけます。抄紙機やボイラーの運転は、入社後の研修で覚えていくのが一般的です。
女性経済産業省の調査(1998年)によると、製造業全体の女性従業者比率は中小企業で42.5%、大企業で22.9%でした。少し古い調査で、いまはこの数字より変わっている可能性がありますが、中小企業のほうが女性の割合が高い傾向は参考になります。製紙・パルプ業界だけを取り出した公的な女性比率のデータは見つかりませんでした。検査・仕分け・梱包といった軽作業は女性も多く働いている工程とされていますが、これも工場一般の傾向で、製紙工場に限定した統計ではありません。女性が働いているか、更衣室などの設備が整っているかは面接で聞いておくと安心です。
年齢求人票に年齢制限をつけることは、法律で原則として禁止されています。製紙工場に限定した年齢データは見つかりませんでしたが、工場勤務全般では中高年の採用実績が多いと紹介されています。年齢だけで応募をあきらめる必要はありません。
求人票でここを見ておく
製紙工場は、配属される工程や会社によって働き方が大きく変わります。応募する前に、次の点を求人票や面接で確認しておくと、入ってからのギャップが減ります。
- どの工程を担当するか(パルプ化、抄紙、乾燥、仕上げなど)
- 高温になる場所での作業があるか、熱中症対策があるか
- 重い物を扱うか、フォークリフトやクレーンで運ぶか
- 勤務の形(二交代・三交代か、夜勤の頻度)
- 安全教育や保護具の支給があるか
- 雇用の形(正社員・契約・派遣・パート)と、正社員になる道があるか
- 時給・月給と、深夜割増・夜勤手当・資格手当などの手当
- 資格の取得を会社が支援してくれるか
「暑そう・危なそう」という不安は、対策の仕組みを確認することで小さくできます。気になる点は、遠慮せず聞いておきましょう。
次にやること
製紙工場は、木材チップや古紙から紙を作る仕事です。高温の設備や大型機械を扱うぶん、対策の仕組みも法律で整っています。きつさは工程や配属先しだいで変わり、力仕事の少ない担当もあります。最後に、今日からできることをまとめます。
- 自分が「暑さ・におい・重さ・交代勤務」のどれを苦手にするか、まず考えてみる。工程しだいで負担は変わります。
- 求人を1〜2件開いて、「担当する工程・勤務の形・時給・資格支援」の4つを見てみる。書いていなければ、確認する候補としてメモする。
- 資格で有利にしたいなら、まずフォークリフト免許の取り方や玉掛け技能講習のまとめを読む。ほかの業種と迷っているなら、工場の業種別 働きやすさ比較で負担の中身を見比べる。
紙を作る仕事は、暮らしを支える仕事でもあります。中身を知って、自分に合うかを確かめれば、判断できます。まずは求人を1件、この目で見るところから始めてみてください。
