エンジン部品を作るラインで働いていると、EVのニュースを見るたびに落ち着かない気持ちになるかもしれません。「この仕事、あと何年あるんだろう」と。
先に、いちばん大事なことを1つ。EV化で自動車工場の仕事が「いっせいに消える」ことは、当面ありません。ただ、中身はゆっくり入れ替わっていきます。エンジンの仕事が減り、電池やモーターの仕事が増える。その変化がどのくらいのペースで、どの仕事に起きるのか。公開されている数字と各社の計画を、一つずつ見ていきましょう。
先に結論
要点は次の5つです。
- EV化は「急に一気に」ではなく、当面はハイブリッド車やエンジン車も作りながら、少しずつ進むと見られています。
- 影響を受けやすいのは、エンジン・変速機・排気・燃料系など、エンジン車だけに使う部品を作る仕事です。EVでは部品ごとなくなります。
- 逆に増えるのは、電池・モーターの仕事。国内では電池工場の新設が続き、そこでは期間工の募集もあります。
- 車体の組立・検査・設備保全は、車の種類が変わっても残る仕事です。
- 今すぐ仕事が消えるわけではありません。ただ長い目で見れば、残る仕事に近いスキル(電気・設備保全など)を少しずつ用意しておくと安心です。
EV化は今どこまで進んでいる?
不安を整理するには、まず「今どのくらい進んでいるか」を数字で見るのが早いです。
電気だけで走るEV(BEV)は、日本ではまだ多くありません。新車の販売にしめる割合は、2025年でだいたい1.5〜2%ほどです(集計のしかたによって幅があります)。
ただし、ここで言葉に注意が要ります。「電動車」という言葉は、EVだけを指しません。ハイブリッド車(HV)も含んだ広い呼び方です。ハイブリッドまで入れると、日本の新車販売の割合は2025年で約5割にのぼります(複数の集計より)。
政府の目標も、この広い意味の「電動車」で立てられています。経済産業省は「乗用車は2035年までに、新車販売で電動車100%」という目標を掲げています。この電動車にはハイブリッドが含まれます。つまり「2035年に売る新車が全部EVになる」という意味ではありません。ガソリンだけで走る車は減っていく方向ですが、エンジンはハイブリッドという形で当面残ります。
なぜEV化で工場の仕事が変わるのか
EV化が工場の仕事に響く一番の理由は、車1台に使う部品の数が減ることです。
業界の解説によると、ガソリン車の部品はおよそ3万点。EVはおよそ2万点、あるいはそれ以下とされています。1台あたり1万点前後、部品が減る計算です(数え方によって幅があります)。
減るのは、エンジンとその周りの部品です。エンジン本体、燃料タンクなどの燃料系、点火プラグなどの点火系、マフラーなどの排気系。これらはエンジンがなくなればまとめて不要になります。変速機(ギアを切り替える装置)も、モーターは低速から力を出せるため、多くのEVでは基本的に要りません。
代わりに増えるのが、電池・モーター・インバーター(電気の流れを調整する装置)です。「エンジン一式」が「電池とモーター」に置きかわる。これが、工場の仕事の中身が変わるとされる仕組みです。だから、エンジンや変速機、燃料・排気系の部品を作る工場ほど、影響を受けやすいと考えられます。
影響を受けやすい仕事、残る仕事
もう少し具体的に、仕事の種類で見てみます。
| 区分 | 仕事・部品の例 | メモ |
|---|---|---|
| 減りやすい | エンジンの組立、エンジン部品の鋳造・鍛造・機械加工 | エンジン車だけに使う部品 |
| 減りやすい | 変速機(トランスミッション)・クラッチの製造 | EVでは基本的に不要 |
| 減りやすい | マフラーなど排気系、燃料タンクなど燃料系の製造 | エンジンがなくなると不要に |
| 残る・増える | 電池(バッテリー)の製造 | 国内で新工場の建設が続く |
| 残る・増える | モーター・インバーターの製造 | エンジン部品の工場を転換する動きも |
| 残る・増える | 車体の組立、内外装の取り付け、検査 | 車種が変わっても必要 |
| 残る・増える | 設備保全、生産技術 | 自動化が進むほど大事になる |
エンジンまわりで、どのくらいの部品が影響を受けるのか。商工総合研究所が2022年にまとめた報告書では、エンジン・変速機・燃料系など、EV化で不要になる部品は、自動車部品およそ3万点のうち約4割にのぼるという試算が紹介されています。
一方で、増える側の動きも実際に起きています。パナソニックエナジーは和歌山工場を電池向けに刷新し、トヨタ系のトヨタバッテリーは静岡・湖西に電池の新工場を建てています。部品メーカーのデンソーは、福島でインバーターの生産を始めました。エンジン部品を作っていた工場を、EV向けの部品づくりに切りかえる動きも出ています(各社の公式発表より)。
なお、EV化で失われる雇用について、「30万人」といった大きな数字を見かけることがあります。これは民間の調査会社が2021年に出した試算で、前提の置き方によって幅があります。国(経済産業省)が公式に「何万人減る」と示した数字ではありません。数字が独り歩きしやすいところなので、幅のある見通しとして受けとめておくのがよいです。
期間工はどうなる?
期間工として気になるのは、募集が減るのかどうかだと思います。ここは工場の種類で分けて見ると、落ち着いて考えられます。
エンジン・変速機の工場は、長い目で見ると工程や人手が減る可能性があります。ただし、これは「今すぐ」ではありません。
完成車の組立工場と電池工場は、当面は募集が続いています。2026年時点でも、トヨタは期間従業員を公式に募集しています。日産は工場によって募集の有無が分かれますが、続けている工場もあります。電池をつくるトヨタバッテリーも、期間社員を公式に募集しています。EV化が進むほど、電池の工場はむしろ人手が要る分野です。
日産が2026年に早期退職を募った、というニュースもありました。ただしその対象は主に事務職で、工場の組立ラインや期間工の募集は続いています(日本経済新聞などの報道より)。
まとめると、公開情報の範囲では「エンジン系の工場は長期では縮む可能性、組立・電池の工場は当面は募集が続く」という違いが見えます。応募のときは、その工場が「エンジン系」か「組立・電池系」かを見ておくと、先の見通しを立てやすくなります。
いつ変わる?急には進まない
「いつ仕事が変わるのか」も気になるところです。結論から言うと、少なくとも日本の主要メーカーの今の方針では、急には進まないという見方が優勢です。
トヨタは「マルチパスウェイ(全方位)」という考え方をとっています。EVだけに絞らず、ハイブリッド・水素・エンジン車も、地域の事情に合わせて並行して作っていく方針です。2025年12月には新しいエンジンを公開するなど、エンジンの開発も続けています(各社の発表より)。
ホンダは、2021年に「2040年に新車の100%をEV・燃料電池車に」という目標を掲げていました。しかし2026年に入り、この目標を見直すと公式に発表しました。当面はハイブリッドなども組み合わせる方針に変えています。
こうした動きを見ると、EV化は「一気に」ではなく、「当面はエンジン車やハイブリッドも作りながら、段階的に」進むと考えるのが現実的です。ただし、これは今の見通しです。国の規制や技術、売れ行きによって、早まることも、緩やかになることもあります。だから「今の仕事がずっと同じ形で続く」とも「すぐなくなる」とも決めつけず、変化に少しずつ備えるのが、いちばん無理のない構えです。
今からできる備え
では、何をしておくといいのか。カギは、さっきの表の「残る・増える仕事」に少しずつ近づいておくことです。あわてて転職しなくても大丈夫。今日からできる小さな一歩を挙げます。
- 電気の資格を1つ。工場の設備は電気で動きます。第二種電気工事士は、独学なら5〜6万円ほどで挑戦でき、工場・設備の仕事で広く役立ちます。
- 設備保全の知識。自動化が進むほど、機械を直せる人は求められます。機械保全技能士は3級なら実務経験なしで受けられます。仕事の中身は設備保全の仕事も参考にしてください。
- ロボットの特別教育。工場のロボットを操作・点検するには、決められた講習(特別教育)が必要です。会社に制度があれば、聞いてみる価値があります。
- 国の制度で費用を下げる。ハローワークの職業訓練(ハロートレーニング)は、受講料が無料のコースがあります。在職中でも使える教育訓練給付という制度もあります。まずは自分の地域のコースを1つ調べてみるだけでも十分です。
お金の制度は条件で変わります。細かい金額や対象は、厚生労働省やハローワークの公式サイトで確認してください。
次にやること
EV化は、工場の仕事を「全部なくす」のではなく、「エンジンから電池へ」ゆっくり入れかえていく変化です。あわてる必要はありません。最後に、今日からできることをまとめます。
- 自分の勤務先・配属先が「エンジン系」か「組立・電池系」かを確認する。先の見通しが立てやすくなります。
- 残る仕事に近い資格を1つ選ぶ。電気(第二種電気工事士)や設備保全(機械保全技能士)から始めやすいです。
- ハローワークの職業訓練で、地域の電気・設備系コースを1つ調べてみる。受講料が無料のコースもあります。
AIや自動化ふくめた工場全体の「なくなる仕事・残る仕事」は、工場の仕事はAIでなくなる?でもまとめています。あわせて読むと、備えの全体像がつかめます。
不安は、正体が分かると小さくなります。EV化は急に来るものではありません。今の仕事を続けながら、残る仕事へのスキルを少しずつ足していく。まずは資格を1つ調べるところから始めてみてください。
