求人票に「表面処理」「めっき加工」とだけ書かれていて、何をする仕事か分からないまま画面を閉じた、ということはないでしょうか。
めっきは、金属の表面に別の金属の膜をつける加工です。薬品を使うので、ほかの工場にはないルールがいくつもあります。工程ごとの作業、法律で決まっている安全のルール、給料と勤務時間、未経験の応募条件の順に見ていきます。
めっきで何をしているのか
めっきは、金属やプラスチックの表面に、うすい金属の膜をつける加工です。目的は主に4つあります。
- さびを防ぐ
- 見た目をよくする
- 電気を通しやすくする
- すり減りにくくする
身近な例では、自動車部品のクロムめっき、電子部品や精密部品の無電解ニッケルめっきがあります(ブラザー「電解・無電解メッキの特徴から使用例」)。自動車、電子機器、住宅設備など、納める先は会社ごとに違います。
前処理からめっき、検査までの流れ
めっき加工は、だいたい次の順番で進みます。
1. 前作業製品を「治具(じぐ)」に取り付けます。治具は、製品を固定しておく道具のことです。
2. 前処理脱脂洗浄で油分を落とし、酸洗いでさびや酸化膜を落とします。そのあと電解洗浄や酸活性化を行います。
前処理はめっきの仕上がりを大きく左右する工程とされていて、手間もかかります(evort「めっき工程とは?基本的な流れと工程管理の方法」)。表面に油やさびが残っていると、膜がうまくつきません。
3. めっき治具に付けた製品をめっき液に浸けて、電気を流します。これで表面に金属の膜ができます。
4. 後処理中和、クロメート処理(さびにくくする処理)、変色防止、乾燥を行います。
5. 後作業治具を外し、必要なら熱処理をして、外観と膜の厚さを検査し、梱包します。
富士電機の公式サイトでは、銅にすずめっきをする例として「材料調達→前処理(脱脂洗浄・酸洗い洗浄)→めっき→洗浄・乾燥→検査・梱包→出荷」という流れが紹介されています(富士電機「めっき加工の流れ」)。材料やめっきの種類が変われば、工程も変わります。
このほか、めっき液の温度やpH(酸性かアルカリ性かの度合い)、濃度を測って調整する作業も毎日あります(evort 同上)。製品を液に浸ける作業だけでなく、液の管理も仕上がりを左右します。
電気めっき・無電解めっき・溶融めっき
めっきの方法は主に3つに分かれます。会社によって、どれを扱うかが違います。
| 種類 | どうやってつけるか | 向いているもの |
|---|---|---|
| 電気めっき | めっき液の中で電気を流し、金属の膜をつける | いちばん一般的。自動車部品や電子部品など |
| 無電解めっき | 電気を使わず、化学反応で膜をつける | 複雑な形のもの、電気を通さないプラスチックなど |
| 溶融めっき | 溶かした金属に製品を浸ける。「どぶ漬け」とも呼ばれる | 大きいもの、重いもの |
(スズキハイテック「無電解めっきと電解めっきの違い」、林精器製造「めっきの種類と分類」)
求人を見るときは、その会社がどの方法を扱っているかも見ておくと、どんな作業になるか想像しやすくなります。
薬品を扱う職場の決まりごと
めっきで使う薬品には、クロム酸及びその塩、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムなどがあります。これらは労働安全衛生法施行令の別表第三で「特定化学物質」として挙げられています(e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」)。
特定化学物質を扱う作業では、会社側に次のことが義務づけられています(e-Gov法令検索「特定化学物質障害予防規則」)。
- 作業主任者を置く…講習を修了した人の中から「特定化学物質作業主任者」を選んで、作業の指揮などをさせる(同規則 第27条)
- 作業環境測定をする…6か月以内ごとに1回、空気中の濃度を測る(同 第36条)
- 健康診断をする…雇い入れたときと配置が変わったとき、その後は多くの物質で6か月以内ごとに1回、医師の健康診断を行う(同 第39条)
- 設備で薬品の発散をおさえる…発散源を密閉する設備、局所排気装置(作業場の空気を吸い出す装置)、プッシュプル型換気装置のいずれかを設ける(同 第5条)
換気の設備、作業環境測定、健康診断は、会社がやらなければならないことです。厚生労働省の職場のあんぜんサイトにも、めっき作業を中心にした化学物質対策の資料があります(職場のあんぜんサイト)。
健康や労災について詳しく知りたいときは、厚生労働省のサイトや、住んでいる地域の労働基準監督署で確認してください。
体に負担がかかりやすいところ
工場の求人を紹介するコウジョブは、工場の仕事でつらいと感じやすい点として、次の内容を挙げています(コウジョブ「工場の仕事が『きつい』と言われる13の理由」)。
- 工場によっては空調が効きにくく、夏は暑い
- 薬品のにおいがある。暑い時期は薬品が揮発しやすい
- 立ち仕事が続く。重い物を運ぶ作業もある
- 2交代や3交代で夜勤がある会社もある
どれも会社や工場によって差があります。前に書いたとおり、換気の設備や作業環境測定は法律で決まっているので、見学や面接のときに換気の仕組みや測定の結果をたずねれば、その職場の状況が分かります。
募集要項で見た給料と勤務時間
企業の公式採用ページで確認できた例です。
| 会社 | 給与 | 勤務時間 | 休日 | 未経験 |
|---|---|---|---|---|
| テイクロ | 新卒 高卒21万5,000円/大卒25万5,000円、中途 月給21万5,000〜28万円 | 交代制(8:00〜17:00/20:00〜5:00)、残業は月平均20時間 | 年間120日 | 未経験歓迎 |
| ピースリー | 月給26万5,000円 | 8:15〜17:15(実働8時間) | 週休2日制(日曜・祝日ほか) | 未経験歓迎。工場経験者は優遇 |
| オーエム産業 | 経験・年齢・能力を考えて規定で決定 | 通常職 8:15〜17:00/製造技術は昼夜2交代制(一部夜勤あり) | 完全週休2日制(土日) | 記載なし |
| シミズ | 社内規定による。賞与年2回 | 8:45〜18:00(実働8時間) | 年間120〜125日 | 技術職(めっき)の中途は化学品の開発経験が必要 |
※2026年9月時点・各社の公開されている募集要項より。テイクロ、ピースリー、オーエム産業、シミズ
確認できた範囲では、製造の仕事の月給はだいたい21万〜28万円くらいでした(2026年9月時点・上の4社の公開情報から)。ただし4社だけの数字なので、地域や会社の規模で変わります。
勤務時間は、昼だけの会社と、2交代で夜勤がある会社の両方がありました。夜勤があるかどうかで、手当も生活のリズムも変わります。求人票で先に確かめておきたいところです。
なお、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)にある「めっき工」のページは、今回データを見ることができませんでした。全国平均の年収は確認できていません。
未経験からの募集はあるのか
公開されている募集要項を見ると、「未経験歓迎」「学歴不問」としている会社が複数ありました(テイクロ、ピースリー、清川メッキ工業)。
テイクロの採用ページでは、入社後にビジネスマナーとめっきの基礎を学んでから、先輩とマンツーマンで実習を行うと説明されています。ピースリーでは、工場勤務の経験者を優遇し、普通自動車免許があればなお良いとしています。
一方で、開発や研究の仕事は条件が違います。シミズの技術職(めっき)の中途採用は、化学品の開発経験と大学での化学専攻が必要と書かれていました。
製造や加工の仕事には未経験から入れる募集があり、開発の仕事では化学の知識や経験を求められます。同じ会社の中でも、募集する職種で条件が変わります。
働きながら取れる資格
めっきの現場に関係する主な資格です。
| 資格 | 種類 | 取り方 | 日数・費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習 | 技能講習 | 講習を受けて修了する | 学科2日、合計1万4,000円(講習料1万1,800円+テキスト代2,200円・税込) |
| めっき技能士(技能検定「めっき」) | 国家資格 | 学科試験と実技試験に合格する | 実技1万8,200円、学科3,100円(目安) |
| 公害防止管理者(水質関係) | 国家資格 | 国家試験に合格するか、資格認定講習を修了する | 区分により異なる |
※費用・日数は2026年9月時点。技能講習の金額は公益社団法人愛知労働基準協会の公開情報で、実施団体によって変わります(愛知労働基準協会)。技能検定の手数料は都道府県職業能力開発協会が実施する分の目安で、都道府県によって違うことがあります。若い人は実技試験の手数料が減額される場合があり、対象や額は都道府県ごとに決まっています(厚生労働省「技能検定 受検の手続き」)。最新の金額は各実施団体で確認してください。
特定化学物質作業主任者は、前の章で書いた「作業主任者」になるための講習です。18歳以上なら受けられます。現場で選任される人がいないと作業が進まないため、会社が費用を出して受けさせることもあります。くわしくは特定化学物質作業主任者の取り方(費用・日数・資格手当)にまとめています。
めっき技能士は、めっきの腕前を証明する国家資格です。作業は電気めっきと溶融亜鉛めっきに分かれています。試験は都道府県職業能力開発協会が行い、中央職業能力開発協会の3級の案内には「めっき(電気めっき作業)」が載っています(中央職業能力開発協会)。合格率は公表されている資料を確認できませんでした。
公害防止管理者は、決められた条件に当てはまる工場で選任が必要な資格です(環境省「公害防止管理者法の概要」)。めっき工場は排水の処理をするため、水質関係の資格を持つ人を置いている会社があります。くわしくは公害防止管理者の取り方(区分の選び方・費用・難易度)を見てください。
全国鍍金工業組合連合会の資格紹介ページでは、このほかに危険物取扱者、衛生管理者、フォークリフト運転技能講習、ガス溶接技能講習なども関係する資格として挙げられています(全国鍍金工業組合連合会)。工場全体で使える資格を先に取りたい人は、工場で稼げる資格の比較(費用・日数・手当・難易度)も参考にしてください。
応募前に求人票で見ておきたいこと
めっき工場の求人を見るときに、確かめておくと後で困りにくい点です。
- 勤務形態…昼勤だけか、2交代・3交代か。夜勤の手当はいくらか。
- 担当する工程…前処理か、めっきか、検査や梱包か。募集の段階で書かれていることがあります。
- 扱うめっきの種類…電気めっきか、無電解めっきか、溶融めっきか。
- 安全の体制…換気の設備、保護具の支給、健康診断の実施。法律で決まっていることなので、聞いても失礼にはなりません。
- 資格の支援…講習や受検の費用を会社が出すかどうか。
次にやること
めっき工場の仕事が気になった人は、次の3つから始めてみてください。
- 近くのめっき会社の採用ページを見る。 「めっき」「表面処理」に加えて、住んでいる市や県の名前を足して検索すると、地元の会社が見つかりやすくなります。
- 求人票で勤務形態と工程を確認する。 夜勤があるか、どの工程を担当するかで、生活も仕事の中身も変わります。
- 資格の計画を立てる。 働き始めてからでも取れます。まずは工場で稼げる資格の比較(費用・日数・手当・難易度)で、自分に合いそうなものを見てみましょう。
参考にした情報
e-Gov法令検索(労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則)、厚生労働省(技能検定、職場のあんぜんサイト)、環境省、中央職業能力開発協会、公益社団法人愛知労働基準協会、全国鍍金工業組合連合会、各社の公式サイト(富士電機、スズキハイテック、林精器製造、テイクロ、ピースリー、オーエム産業、シミズ、清川メッキ工業、ブラザー、アスク)、evort、コウジョブの公開情報をもとにまとめました(取得は2026年9月)。給与や募集内容、講習の費用は変わることがあります。最新の情報は各社の採用ページや、講習・試験の実施団体で確認してください。
