自動車の組立ラインというと、ベルトコンベアの前で、同じ作業をひたすら繰り返す。そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。
実際は少し違います。組立ラインの仕事は「プレス」「溶接」「塗装」「組立」「検査」という中身の違う工程に分かれていて、どこに配属されるかで1日の過ごし方はまったく変わります。
この記事では、完成車工場の組立ラインが実際にどんな仕事か、どの工程がきついと言われるか、時給はいくらくらいかを、公開されている情報から整理しました。
先に結論
長い記事なので、要点を先に置いておきます。
- 完成車ラインの仕事は、大きく「プレス・溶接・塗装・組立・検査」の5工程に分かれます。求人によってどの工程かが違うので、まずここを確認するのが第一歩です。
- 「きつい」と言われやすいのは組立工程です。中腰や上を向いた姿勢が長く続くためです。逆に検査工程は体力面の負担が軽いと言われています。
- 時給・日給はメーカーごとに公開されていますが、時期や配属で変わります。月収の目安は、期間工でおよそ26万〜32万円程度です。
- 未経験からの応募を受け付けているメーカーが多く、研修制度もあります。年齢や性別で完全に門前払いということは基本的にありません。
- 完成車ラインは24時間稼働が基本で、2交替制(昼勤・夜勤あり)で働くことが多いです。夜勤なしを希望するなら、応募前に確認が必要です。
完成車の組立ラインってどんな仕事?
自動車を作る流れは、大きく「プレス→溶接→塗装→組立→検査」の5つの工程に分かれます(数え方によっては4工程・6工程とする資料もあります)。
トヨタ産業技術記念館は、車づくりを「プレス、溶接、塗装、組立て」の4つの工程で紹介しています。このサイトでは、そこに「検査」を加えた5工程で説明します。
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」にも「自動車組立」という職業が載っています。説明によると、塗装済みのボディに、外装・内装の部品や配線、エンジン、足回りなどを組み付けていくのが仕事です。工具や設備の点検も含まれるとされています。
工程別に見る仕事内容
| 工程 | 主な作業内容 |
|---|---|
| プレス | 鋼板をプレス機で型打ちして、フレーム・ルーフ・ドアなどの車体パーツを作る |
| 溶接 | プレスで作ったパーツを、車体としてつなぎ合わせる。溶接ロボットの監視と、手作業での補正溶接が中心 |
| 塗装 | 電着塗装(塗料の中にボディを丸ごと入れて色をつける方法)とロボットによる吹き付けが中心。仕上げの検査やすき間を埋める処理は人の手で行う |
| 組立 | 塗装を終えたボディに、シート・内装部品・エンジン・トランスミッション・足回りなど数千点の部品を組み付ける |
| 検査 | 完成した車にキズ・汚れ・不具合がないか、目視や測定機器で確認する |
※各工程の解説は、トヨタ産業技術記念館や完成車メーカーの採用サイトなどの公開情報をもとに整理しました(2026年7月時点)。
同じ「組立ラインの仕事」でも、どの工程になるかで作業の中身はまったく違います。求人票だけでは工程まで分からないことも多いので、面接で確認しておきたいところです。
「きつい」と言われる工程・楽な工程
工程ごとの負担については、期間工の求人・体験談サイトの情報を集めると、次のような傾向が見えてきます。公式な統計ではなく、複数のサイトの記述をもとにした目安です。
- 組立:配属される人数がもっとも多い工程です。車内に入り込んでの作業が多く、中腰や上を向いた姿勢が長時間続くため、腰や指への負担が大きいと紹介されることが目立ちます。
- 塗装:クリーンルームでの作業になり、季節を問わずつなぎの防護服が必要です。塗料のにおいがあり、防毒マスクの着用も欠かせません。
- 溶接:ロボットの監視が中心の仕事です。単調ではあるものの、自動化が進んだぶん体力面の負担は比較的軽い、という書き方をしているサイトが複数ありました。
- 検査:重いものを持つ場面が少なく、体力面の負担は軽い工程です。女性の配属が多いとも紹介されています。ただし、キズの見逃しが許されない分、集中力は必要になります。
- プレス:評価が情報源によってばらつき、はっきりしたことは確認できませんでした。
体への負担の感じ方は人によって差があります。ここに書いたのは、あくまで目安です。
時給・月収の目安
完成車メーカーの期間工は、時給ではなく「日給」で募集されていることが多いです。各メーカーの採用サイトや期間工専門の求人サイトの公開情報から、目安をまとめました。
| メーカー | 日給・時給の目安 | 月収の目安 |
|---|---|---|
| トヨタ自動車 | 日給10,800円程度〜 | 28万〜32万円程度 |
| SUBARU(スバル) | 日給11,000円程度〜(昇給あり) | 30万円程度〜 |
| ホンダ(鈴鹿製作所) | 日給11,500円程度〜 | 30万円程度〜(残業を含む) |
| スズキ | 日給10,400円程度 | 26万円程度、残業・手当込みで30万円台 |
| 三菱自動車(岡崎製作所) | 時給1,410〜1,484円程度 | 確認できませんでした |
※期間工専門の求人・情報サイトの公開情報より(2026年7月時点)。メーカー公式の一次発表ではなく、時期・配属・手当の有無で変わります。応募前に必ず最新の募集要項で確認してください。
雇用形態別に見ると、月収の目安はこう変わります。
- 正社員:月給制。賞与・昇給・退職金があり、収入は安定しやすいとされています。
- 期間工:日給制。皆勤手当や満了慰労金、入社祝い金などを含めると、月収30万〜35万円程度、手取りで25万〜30万円程度という情報が複数のサイトで見られました。
- 派遣:時給制。夜勤や残業を含めて月収25万〜30万円程度という情報があります。賞与・退職金がないことが一般的です。
なお、厚生労働省の有効求人倍率(季節調整値・全国・全産業)は2026年5月時点で1.17倍でした。これは自動車組立に限った数字ではなく、全産業の目安として参考にしてください。「輸送用機械器具製造業」だけに絞った賃金や有効求人倍率は、今回確認できませんでした。
未経験・女性・年齢のこと
トヨタの期間従業員募集サイトには、「未経験からでも安心してスタートできるよう、充実した研修制度と安全対策」が整っている、と書かれています。入社後は安全衛生や品質管理を学ぶ受入研修があり、配属後も指導員がつく仕組みです。
ホンダの応募条件は、実務経験・学歴不問、18歳以上(深夜勤務があるため)、交替制勤務ができること、3ヶ月以上勤務できることとなっています。日野自動車も、満18歳以上であれば男女とも職歴・学歴不問、年齢制限なしとされています。
女性や40代以上の人が働いている、という情報は複数のメーカーで見つかりました。ただし、正式な比率を示す公式の統計は確認できませんでした。求人・情報サイトの記載では「女性の割合は1割程度」「40代・50代の割合は1〜2割程度」とする情報がありますが、時期やメーカーによって変わるため、目安程度に見てください。
トヨタには、女性は10kg以上の重量物を持ってはいけない、という作業ルールがあるとされています。これは女性労働基準規則という法律上の重さの上限(18歳以上・継続作業で20kgまで)より厳しい、会社独自のルールです。
交替勤務の仕組み
完成車の組立ラインは24時間稼働することが多く、2交替制(昼勤・夜勤あり)が基本です。
トヨタの場合、1直(昼勤)と2直(夜勤)を1週間ごとに入れ替える連続2交替制が基本とされています。1直はだいたい6時25分〜15時05分ごろ、2直は16時〜翌0時40分ごろで、実働時間はおよそ7時間35分程度という情報があります。配属先によっては、夜勤のない日勤のみの勤務パターンもあるようです。
ホンダも基本は二交替制で、昼勤と夜勤を1週間ごとに繰り返す働き方です。応募条件に「18歳以上(深夜勤務があるため)」とあるのも、夜勤が前提になっていることの表れです。
「夜勤なしで働ける」求人がまったくないわけではありませんが、完成車の組立ラインでは2交替制が基本と考えておいたほうがよさそうです。夜勤が難しい事情がある人は、応募前に必ず確認してください。
安全面で知っておくこと
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、実際に起きた労働災害の事例が記録されています。組立ラインで目立つのは「はさまれ・巻き込まれ」で、プレス機の金型の間や、ロボットの可動部などで起きています。
製造業全体で見ると(2024年・確定値)、死亡者数は142人で全産業の19.0%、機械などによる「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数はおよそ4,690人でした。前年より4.4%減っています。「輸送用機械器具製造業」だけに絞った数字は確認できませんでしたが、製造業全体の傾向として、はさまれ・巻き込まれのリスクがあることは知っておいたほうがよいです。
各メーカーも対策をしています。トヨタは「STOP6活動」という重大災害の防止策を1992年から続けており、はさまれ・巻き込まれや重量物との接触など、6つの危険源に対策を立てる仕組みです。SUBARUは「安全体感道場」で、グループ従業員だけでなく派遣社員や協力会社の社員も対象に安全教育を行っており、2024年度は年間3,400人が受講したとされています。
産業用ロボットの周りには安全柵を設置し、柵の中に人が入ったことを検知するセンサーを使うのが基本的な対策です。見学や面接の機会があれば、こうした安全対策がきちんとされている職場かどうかも見ておきたいポイントです。
部品工場との違い
「自動車工場」と一口に言っても、完成車工場と部品工場では担当する工程が違います。
完成車工場(トヨタ・ホンダなどの完成車メーカー)は、車体の溶接・組立・塗装・完成車両の検査など、車を最後まで組み上げる工程を担当します。部品工場(デンソー・アイシンなどの部品メーカー)は、エンジン部品などの鋳造・鍛造、部品の加工・組み付けを担当します。
部品メーカーは扱う部品が小さいものも多く、完成車工場より体力面の負担が少なめだという情報があります。電子部品を多く扱う部品メーカーでは、女性の採用が多い工場もあるようです。
部品工場の仕事内容は自動車部品工場の仕事はきつい?工程別の中身と時給を整理で詳しく整理しています。
応募前に確認したいこと
- 配属先は選べないことが多い。どの工場・どの工程になるかは、応募時点ではなく入社後の研修の中で決まることが多いとされています。
- 寮の設備・寮費はメーカーによって差がある。トヨタの場合、独身寮は1人部屋で冷暖房・テレビ・冷蔵庫つき、寮費は光熱費含めて無料という情報がありますが、条件はメーカー・工場ごとに違います。
- 契約期間には上限がある。期間工は、有期労働契約が原則3年を超えられないという労働基準法のルール(第14条。いわゆる3年ルール)にあわせ、最長2年11ヶ月とする例が多いです。
- 「期間工」と「派遣社員」の違いも確認する。期間工はメーカーと直接雇用契約を結び、派遣社員は派遣会社と契約して工場に派遣されます。同じ工場の求人でも、どちらの雇用形態かで契約期間の上限などが変わります。
次にやること
自動車組立工場(完成車ライン)を候補にするなら、次の順で確認すると、応募後のギャップを減らせます。
- どの工程かを聞く。 プレス・溶接・塗装・組立・検査で仕事の中身も負担も違います。求人票に書かれていなければ、面接で確認してください。
- 交替勤務の型を聞く。 2交替制が基本ですが、何時から何時までか、夜勤の頻度はどれくらいかは会社によって違います。
- 時給・月収の内訳を確認する。 日給や時給だけでなく、皆勤手当や満了慰労金がいくらで、何を満たせばもらえるかまで見ておくと、実際の手取りのイメージがつかみやすくなります。
- 雇用形態を決める。 期間工(直接雇用)と派遣で、契約期間や待遇の仕組みが違います。安定を重視するか、まとまった額を短期で狙うかで選び方が変わります。
- 部品工場とも比較する。 同じ自動車業界でも、完成車工場と部品工場では働き方が違います。自動車部品工場の仕事もあわせて見て、自分に合いそうな方を選んでください。
参考にした情報
- トヨタ産業技術記念館「クルマができるまで」:https://www.tcmit.org/learn/kids/car01-a
- 厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)」自動車組立:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/264
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害事例:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況」:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html
- 厚生労働省「一般職業紹介状況」:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74004.html
- トヨタ自動車 期間従業員募集サイト:https://www.t-kikan.jp/
- ホンダ期間従業員採用サイト:https://www.honda-employee.com/
- SUBARU「安全・衛生の取り組み」:https://www.subaru.co.jp/csr/social/resources/safety.html
※各メーカーの時給・日給・月収や女性比率などは、期間工専門の求人・情報サイトの公開情報も参考にしています。時期や配属で変わるため、応募前に必ず最新の募集要項を確認してください。
